酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

桜が創った「日本」―ソメイヨシノ起源への旅

桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書)

桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書)

現代の私達が桜と言われて思い出すソメイヨシノの歴史が、実は極めて浅い(せいぜいここ100年程の間に広がった)という事実は、最近そこここで見聞きするようになりましたが、実際にその起源がどのようなものであり、そこに思いを託す「日本」人の意識がどのように醸成されてきたかはあまり知らずに過ごして来ました。
本書は様々な文献にあたりながら、今やまるで日本を代表する花のようになってしまった「ソメイヨシノ」という桜を巡る「日本人の意識の変遷の歴史」を検討する面白い試みです。
かつては梅や松に並んで日本の風景を飾る一つの要素に過ぎなかった「桜」が、ソメイヨシノというある意味突出した特性をもつ「個体」(ソメイヨシノは基本的に接木で増やされているので、みな同じ遺伝子を持ちそれゆえに桜前線のような均一化が可能になっています)を得て、どのように「日本」という国のアイデンティティの確立に絡んでいったかの探求は、私達がいままで当然のこととして受け入れてきた事柄の基盤をも揺るがす大変スリリングなものです。
今年は様々な桜を意識してみるようにしたいと思わせる本でした(まあ今までも新宿御苑などで、様々な種類の桜の存在には気がついていましたけれど、泥縄的ではありますね)。