新版 東京漂流

新版 東京漂流 (新潮文庫)

１９８３年に出版された「東京漂流」を出版直後に読んだとき、異様に重いものを腹に感じた気がしました（この年は私が社会人になった翌年）。今回紹介する「新版 東京漂流 (新潮文庫)」はその７年後１９９０年に、新たな二編のエッセイを付け加えて出版された文庫版です。
何故今更そんなに旧い本を、といぶかしむ方もいらっしゃると思いますが、きっかけは単純で a2004 さんの id:a2004:20050117 を読んで、久しぶりに藤原氏の名前を思い出したからです。最初は家のどこかに埋まっている筈の「東京漂流」を再読しようと思ったのですが、あまりに本が多くて発掘を断念。そこで、折角なので「新版 東京漂流 (新潮文庫)」を Amazon のマーケットプレイスで入手して読みました。新しい二編は先の本が出てからの後日談ですが、宮崎勤事件を受けてのものと、FOCUS で連載を持っていた当時の筆禍（？）事件を受けてのものです。
ここで藤原氏が気にしているのは「肉体感覚の喪失」や「価値観の単純化による魔女狩り」ですが、生命のリアリティが急速に失われて、思考が幼稚化していく現代の趨勢に、激しい警鐘を打ち鳴らすかのような文体は最初の発表から２０年以上を経てもその価値を失っていません。森達也氏をを読んだ後に改めて藤原新也氏を読むと、その骨格の太さの違いをひしと感じます。もちろん森氏の仕事も素晴らしいものですが、藤原氏とはふてぶてしさのレベルが違うような印象を受けるのでした。