酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

言葉の常備薬

呉 智英 (著)
ということで呉智英氏の久しぶりの新刊です。過去にも「言葉につける薬 (双葉文庫―POCHE FUTABA)」などの著作で、偉そうな人々の使う怪しい日本語をおちょくってきた氏が、ここ数年様々な雑誌に書いてきた言葉に関する面白い話題が満載です。
呉氏が特に嫌うのは、乱れていると巷間言われる「若者言葉」ではなく、むしろ功成り名遂げた人物による勿体ぶった(それでいて間違っている)様々な言葉です。これ以外にも世間で誤解されている解釈を指摘したり、意外な言葉のつながりを紹介したり、と日本語に限らず言葉に興味のある人なら色々楽しめるのではないでしょうか。ただ昔の著作ほど毒気を感じないのは、読み手も慣れてきたのかもしれません。
ところで、前書きの中で、呉氏は産経新聞校閲部長の塩原経央氏の文章を取り上げて、


「捨象」を「捨てる」の高級表現だと思っているのだろう
と皮肉を述べています。「捨象」は「抽象」と同じ言葉 "abstract" の訳語なので、もちろん「捨てる」の高級表現ではないのですが、残念なことにここで呉氏は原語を "abstruct" と綴っています。う〜ん呉先生、惜しい。この間違いもよく見るんですよね…。