酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

THE BIG YEAR 小鳥たちと男たちの狂想曲

マーク オブマシック 著, 朝倉 和子 訳 (ASIN:4757210396)
"The Big Year(ビッグイヤー)" とは一年間に北米でいかに多くの種類の鳥を観察したかを競う競技会の名称です。単なる平和なバードウォッチングを想像すると大間違い。優勝を狙う参加者はブリザード吹きすさぶアラスカの地や、ホテルもないアッツ島に乗り込み、ヘリコプターを使いコロラドの雪山に上り、蚊と泥に苦しめられながら、お目当ての一羽の小鳥を待ちつづけます。
この本は、近年まれに見る激闘となった1998年のビッグイヤーのノンフィクションです。
登場人物は3人。離婚の痛手を乗り越えるために好きな探鳥に活路を見出そうとするエンジニア、世界的化学企業の重役を長年勤め、やっと引退に伴って好きな道にかけてみたくなったビジネスマン、そしてかつて一度ビッグイヤーを制しながら再び挑戦を決意した企業家。
後の二人に比べて、最初のエンジニアはフルタイムで働きながら(もうほとんどの人は忘れてしまったかもしれませんが、彼は西暦2000年問題に対象するために雇われているソフトウェアエンジニアでした)週末に時間をやりくりしながら北米を駆け回ります。最後の企業家は1千万円以上をこの競技につぎ込んでいますが、エンジニアは借金しまくりで200万円程度をなんとかひねり出しています。こうした人間模様も読ませどころのひとつです。
ある珍しい鳥が見られるのは、限られた時期の限られた場所でしかありません。そのためさまざまな情報ネットワークを駆使しながら、ライバル同士はときに腹を探り合い、また時には助け合いながらそれぞれのゴールを目指します。
帯に「バカか?偉業か?」とあるのですが、正に言葉どおりの「闘い」が繰り広げられます。人間の理屈抜きの情熱の毒気に当てられて見たい方は是非。
なお著者のオブマシック氏はコロンバイン高校銃乱射事件のレポートでピュリッツアー賞を受賞したデンバーポスト(新聞)のジャーナリストですが、みずからも探鳥家でもあるため、自然と描写も迫力のあるものになっています。

ps. 関係ありませんが、訳者の朝倉さんという方は翻訳者件ジャズピアニストだそうです。