酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

六の宮の姫君 創元推理文庫

北村 薫 (ASIN:4488413048)
文学に関する北村氏の博覧強記が、見事に小説の形に結実した面白い本でした。今回も「私」と「円紫師匠」が登場はするのですが、今回提示される「謎」は現代の事件ではなく、タイトルにもある「六の宮の姫君」(芥川龍之介の小説)の書かれた背景が、「私」の目を通してだんだん明らかになっていく過程が描かれています。最後のダメ押しの謎解きは、さらに次の巻である「朝霧」でさりげなく示されるところがまた心憎いところです。
ここで示された「謎とき」の過程というのは、抽象的なレベルでは「研究」というものと似通っているという印象を受けました。そうした意味で研究者とミステリファンとは似通ったメンタリティを持ちえるのかもしれませんね(きわめてナイーブな意見ですが)。
しかし、こういう形の「推理小説」が成り立つということ自身、大変興味深いものでした。