- 作者: 井上雄彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/11/26
- メディア: コミック
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今回はあまり大きな動きはなく、高橋を中心にしたリハビリの話と野宮のプロへ向けての活動開始などが淡々と描かれていますね。そもそも車椅子バスケットのシーンが一コマも登場しません。今回はひたすら静かに物語の「圧力」を高めている感じでした。
登場人物たちの主観をこれほどまでに濃密に時間をかけて描いて行く漫画は、他にあまり類を見ないものだと思います。絶望と希望との間を彷徨う(後天的)障害者の気持ちは、他のありがちな物語のように解りやすい方向には容易にまとまってはいきません。ここでは努力、友情、勝利は自明のレシピではなく、泥を捏ね上げるようにそれぞれの心の中に育てられていくもののようです。しかもその形はひとによって様々です。
自らを振り返っても、簡単には覚悟を決められることではなさそうです。悩みに悩んで徐々に受け容れて行くしかないのでしょう。これはごく身近な人間が不可逆的な身体的状況に陥り、介護/保護をしなければならない立場になった人間にも共通するプロセスです。
この第9巻の最後のコマは象徴的で、次の巻では大きな動きがありそうです。しかしそれを知るにはまた一年待つ必要があるのですが。