酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

家日和

家日和

家日和

イン・ザ・プール (文春文庫)」「空中ブランコ」で知られる奥田英朗氏による「ビター&スウィートな<在宅>小説」(帯のコピーより)だそうです。この作者は他にも「マドンナ (講談社文庫)」「ガール」「東京物語 (集英社文庫)」などなど、市井のひとの心の動きをコミカルにそして物悲しく描かせたら天下一品な作品が多いのですから、今回の作品集も期待して読みました。
お話の舞台はどれも「家」が中心です。描かれるのは、ネットオークションにハマる主婦の高揚と罪悪感と幸せの再確認、失業して主夫になってその居心地よさを発見しつつも「世間」の視線に戸惑う男性、妻と別居したので自宅を理想の「城」に改装し仲間の溜まり場にする会社員、内職の担当営業の若者を相手にした妄想に浸る主婦、次々と職を変える夫に振り回されながらどこかでそれを楽しんでいるイラストレーターの女性、ロハス信者になった妻とその仲間たちに内心抵抗しつつも最後はその「軍門」にくだる作家、といった人々です。
いずれもいじらしく、しかも、自分がその立場だったら確かにそう思いかねない等身大の人々です。そして更に一歩下がった作者の目がそうしたドタバタを愛おしく眺めています。
ちょっとしたことでものの見方は変わり新しい視界が開けるものですが、そうした「効用」は抜きにしても、良質のエンターテイメントとして読むことができるでしょう。