酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

マドンナ

奥田 英朗 (著)
空中ブランコ」で直木賞を取った、奥田氏の作品。出版は少し前で 2002 年です。この作者は私とほぼ同じ年齢なのですが、そろそろミドルエイジクライシスに向き合うお年頃。この作品に描かれるのはほぼ同年代(40代半ば)の5人の「課長さん」です。
17歳年下のOLにときめき(でも告白できず、妄想が膨らむ一方)、息子の進路に悩み(好き勝手な行動をとる同僚にも振り回され)、出入り業者と調達部門の小さな癒着に憤ったり、同い年の女性上司との付き合い方に悩んだり。そして、やもめ暮らしの父親に人生の黄昏の悲哀をみる…。乾いたユーモアとリアリズムが、人生に寄り添う人間の滑稽さや愚かさを描き出して行きます。「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」の伊良部のようなエキセントリックな感じはありませんが、なんとなく心に残る良品というべき仕上がりです。
中間管理職の悲哀といった言葉がありますが、団塊の世代より少し若いこの世代の苦悩は、いままで多くの小説で描かれていたものとはまた異なるもののように思えます。少し上の世代と違い「逆らうべき旧世代」を明確には持たなかった世代の「喧嘩下手」さを思わずにはいられません。