酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

イン・ザ・プール

奥田 英朗
空中ブランコ」で直木賞を受賞した奥田氏の作品です(本書は「空中ブランコ」以前に出版され、直木賞を受賞しそこなったもの)。何の気なしに読み始めたのですが、登場する精神科医「伊良部」のキャラクターにはまりました。破天荒なはた迷惑さは、例えば伊坂幸太郎の「チルドレン」に出てくる陣内ばりなのですが、陣内とは違ってより稚気に溢れ見かけは太った中年男という設定で、冗談とも本気ともつかない行動に患者は振り回されっぱなしになります。どちらか医者か患者かわからないといった展開は思わず笑いを誘います。
登場する患者達は、携帯中毒、水泳中毒、強迫神経症、被害妄想などなど、しかし彼らを追い詰めた社会に対する引け目や気負いを微塵も感じさせない伊良部の行動に、患者達もやがて自分達なりの道を切り拓いていくことの大切さを悟ります。気分が滅入りそうなときなどにお勧めの一冊ですね。