酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

水に眠る 文春文庫

北村 薫 (ASIN:4167586010)
北村薫氏が紡ぎだす11の短編は、まるで宝石箱を覗いたような心持にさせてくれます。氏の他の多くの作品のように、基調は日常生活の描写でありながら、この短編集の場合はそれぞれの掌編に特徴的な味付けがなされています。ときに超自然的なものやSF的なものさえ交ざりながら、少しずつ緊張が高まり、最後にふうっとそれが心地よくほぐれて行きます。
必ずしもミステリーの範疇には入らない「ものがたり」と呼ばれるに相応しい一冊ですね。ちなみに「ものがたり」というのはこの本に含まれる短編の一つの名前ですが、「贅沢」と呼ぶしかないような(並みの作家ならこの中にちりばめられている材料だけで5つくらい短編を書きそうです)作品です。