酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

鬼平料理番日記 小学館文庫

阿部 孤柳 (ASIN:4094164111)
まず注意。おなかがすいているときに読んではいけません(笑)。ここに描かれた美味しそうな料理の話はこれ以上ないほど刺激的です。この本は、テレビドラマ「鬼平犯科帳」の消え物、すなわち食べ物を担当していた阿部氏による、番組を彩った食べ物に関する解説本なのです。
通常テレビドラマの食べ物はほんの形だけのものであることが多いのですが、「鬼平犯科帳」にあっては原作者である池波正太郎氏のこだわりもあって料理そのものが重要な狂言回しとして使われることが少なくありませんでした。小説の中には「田楽を食べる」とただ書いてあっても、地方により串の数などが違うため、映像化する際にはそれこそ考古学的手法、料理的感性を総動員して再現に尽力するといったことが繰り返されていたようです。
この本は、そのような考証的な楽しみ、役者さんたちの立ち居振る舞いの描写に触れる楽しみ、純粋に江戸〜東京の食文化に触れる楽しみ、個々の料理を美味しく仕上げるために積み重ねられる考察やちょっとした手技、そして美しい料理の写真などなど、文庫にもかかわらず盛りだくさんの内容が詰め込まれています。食べることの好きな方、江戸時代の風俗の好きな方などにお勧めしたい一冊です。