酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

心を商品化する社会―「心のケア」の危うさを問う

小沢 牧子, 中島 浩籌 (ASIN:4896918266)
とても恐ろしい本です。しかし異論もあるでしょうが、多くの人に読んで欲しい本です。

しらずしらずのうちに、私達を追い込んでいるのが、最近の「こころの専門家」の跳梁跋扈かもしれません。
#済みません、ワザと挑発的な書き方をしています。

著者達は問いかけます。今世の中で、社会の問題を個人個人の「こころの問題」に矮小化する流れを強く感じていること。すなわち現代にストレスが多いのは「仕方がない」、様々な事件が起きるのも「仕方がない」、だから個人の「心」を「専門家の手を借りて」フォローしよう…でもなにも変わっていないのに「癒される」だけで良いの?気が付いたら取り返しのつかないところまで進んでしまっていることはないの?と。

カウンセラーは問題を生じさせる背景とは戦ってはくれず、カウンセリングに来た「被害者」の「こころの負担」を取り除くことを第一義と考えて行動します。もちろんそれが「仕事」なのは良くわかりますが、その結果「社会として」改善すべきそもそもの問題がなおざりにされていないでしょうか?

また、悩んでいる人を目の前にした、人々(私達)の反応も「悩んでいるならカウンセリングを受けたら?」的発想に傾きがちになっていないでしょうか?これがもう一歩すすむと「臭いものに蓋」という流れとなりかねません。「職業的専門家がいるのだから、すべて任せておけば良い」という態度は、かなり無責任な態度ではないでしょうか。

辛淑玉*1が、どこかで「イジメを見かけたら、すべきことは被害者に頑張れということじゃない、イジメている方に『なにすんだ』というべきなんだ」といった主旨の発言をしていた事を思い出しました。

*1:まあ必ずしも同じ政治的立場に立っているわけではありませんが