酔眼漂流読書日記

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テセウスの船

The Dionysiac Afterlife: a Mythical Hope  - I

現在モーニングに連載中のマンガに「テセウスの船」というものがあります。

※ 以下途中段階でのネタバレを含みます

テセウスの船(1) (モーニングコミックス)

テセウスの船(1) (モーニングコミックス)

 

 話の内容は、大量殺人を犯したと考えられている父親を持つ主人公が、その大量殺人事件が起きる直前の村にタイムスリップによって移動するところから始まります。冒頭の「現代」では、主人公の一家は大量殺人犯の身内として世間から白眼視されています。

ところで「テセウスの船」というのは

「ある物体の構成要素が徐々に置き換えられて行き、最終的に全て置き換えられてしまったときに、それは元の物体と同じものだと言えるのか?」

という哲学的な問のことです。

さて、最初このタイムスリップした主人公が過去を調べ行動することによって、少しずつ過去改変してしまう現象そのものを指して「テセウスの船」というタイトルをつけているのかなと思っていました。しかし、少々過去を入れ替えて、たとえば事件の真相が解明されたとしても、構成要素が大きく変わるわけではないので「テセウスの船」というには少々大袈裟なタイトルだなと思っていました。

ところが、問題の大量殺人事件が起きる前に、主人公は「現代」に引き戻されます。そしてその「現代」は元々主人公がいた「現在」とは微妙に異なっているのです。

それは自分が「過去」に戻って行った行動によって影響を受けているようなのでした ...とはいえ主人公がいなくなった過去でもやはり大量殺人事件は起こり、やはり主人公の父親が犯人とされていました。主人公は改めて「現在」がどうなっているのかを調べ始めます。

この先どう展開していくのかわからないのですが、主人公が「過去」と「現代」を(自分の意志の力ではなく)行き来しながら、最終的には「事件の本当の犯人」(とりあえず悪意のある「犯人」がいることは示されている)を特定するという流れになるのでしょう。そうなると、過去の状況が変わる度に、現代でも様々な状況が変わっていくことになるのでしょうけれど、そのように「ほとんどが変わってしまった」ときに、主人公が「解決」したものとは何になるでしょう?なにしろ一貫したストーリーを追っているのは主人公(と主人公を眺めている読者)だけなのです。

それこそが「テセウスの船」というタイトルをつけた理由なのかもしれません。

タイムスリップものとしては少しヒネリがきいていて面白いのですが、いかんせん話を進めるためのご都合主義も多くて、その意味ではやや実験的な作品とも言えるかもしれません。