酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

岳 (1) (ビッグコミックス)

岳 (1) (ビッグコミックス)

ボランテイアの山岳救助員である島崎三歩という青年が主人公の漫画です。もうずいぶん以前から連載されていたのですが、なんとなく食わず嫌いで読んでいませんでした(いくつかの受賞歴も知ってはいましたが)。
おそらく平和でお気楽な山登り娯楽漫画なのだろうと、勝手に思っていたからなのでしょう。

それがふとした機会に読んでみたときに、その印象が全く間違っていたことを知りました。この漫画の素晴らしさを知った今、不明を恥じるばかりです。

さて、そもそも救助隊員が主人公ではあるのですが、遭難者が助からないこともとても多いのが印象的です。しかもその遺体の描き方は、本当に「モノ」と化してしまった人間の姿をきわめてクールに捉えています。生と死が本当に隣合わせであることを、突きつけてくるような気がします。もちろん山という特殊な場所であるが故に、生と死の対比は際立ちやすいのですが、普通の生活をしている私たちにも、その生死の境目の危ういほどの薄さを気が付かせてくれるようです。

主人公が陽気で優しい表情の合間に垣間見せる、厳しく一見冷たい態度は、そうした命の重さをなんども受け止めてきた経験を反映するものなのかもしれません。

山は危ない場所であると同時に、魂が純化されるような場所なのでしょう。実際にハードな山登りをしない私にもその真髄は理解出来ないにせよ、それを自分なりに咀嚼できるような気がしました。