- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2003/08/03
- メディア: 文庫
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内田樹氏は、好きな評論家のひとりです。決してふんぞりかえったり、力んで目を剥いて人を威圧したりしません。それでいて緻密な議論に敬意を払い、読者がついて来ているかをふりかえり確かめながら、いつの間にか世間の、というよりもマスコミ等の振り撒くセンセーショナルで定型的な結論からは遠いところに読み手を誘います。その場合でも「これが正しい、自分の言うことを聞け」という口調ではなく、自分の考えを示しつつ読者に判断を委ねます。
その姿勢は、以下の著者のあとがきの中に顕著に示されています。
最初の方のスーザン・ソンタグ批判から最後のカミュ論まで、言っていることはずっと同じである。それは何か、と言われてもさすがに一言ではうまく言えない。無理して言えば、それは「自分の正しさを雄弁に主張することのできる知性よりも、自分の愚かさを吟味できる知性のほうが、私は好きだ」ということになるだろう(なんだ、一言でいえるじゃないか)。
私自身は、こうした書きようはとても好きなのですが、一方こうした穏やかな方法ではなかなか読者に思いを伝えきれない(特に偏見に満ちているような人たちには)のだろうなとも思います。一歩引いて穏やかな主張をするひとを無視するような声高な主張は世に満ちています。
内田氏は、本書でさまざまなテーマ、サブタイトルにもあるような戦争、性、物語などについて思索を巡らせます。そして世の中で主張されている「これが正しい、こう考えるべきだ、私の言うことを信じなさい」というもの言いに対して、丁寧にそしてためらいがちに反論を行い、読み手自身が安易な結論に陥りそうになると「それは本当にそうですか?考え続けませんか?」と常に呼びかけてくるような気がします。
自分の思索の回路が動脈硬化を起こしているような気がしているひとや*1、若くてまだ議論に不慣れなひとなどに、特にお薦めしたい本です。
*1:私もそうですが