酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

「サヨナラ」ダケガ人生カ―漢詩七五訳に遊ぶ

松下緑(著)
漢詩を伝統的な読み下しではなく、意を汲みつつ七五調で訳した遊び心満点の漢詩戯訳集です。こうした戯訳集としては井伏鱒二の「厄除け詩集」というものがあるそうで、有名な太宰治の言葉「サヨナラダケガ人生ダ」も、この「厄除け詩集」から引用されたものだとか。
著者の松下氏はこうした漢詩戯訳の先達にならい、瑞々しい遊びを届けてくれました。たとえば杜甫の絶句は以下のようになります


江碧鳥逾白
山青花欲然
今春看又過
何日是歸年
通常の読み下しだと

江碧にして鳥逾々(いよいよ)白く
山青くして花燃えんと欲す
今春看々(みすみす)又過ぐ
何れの日か是れ帰年ならん
といったものですが、これを著者は以下のように訳します

キヨキ川面ノカモメドリ
ミドリノ山ニサツキモエ
コトシモ春ハスギテユク
クニニ帰ルハイツノ日ゾ
まあこの辺は小手調べ、中には以下のような現代に置き換えての意訳も混ざっています。原文は孟浩然の「洛陽訪袁拾遺不遇」

洛陽訪才子
江嶺作流人
聞説梅花早
何如此地春
通常の読み下し文

洛陽に才子を訪えば
江嶺に流人と作れり
聞くならく 梅花早しと
何ぞこの地の春に如かん
そして本書

東京本社ヲ訪ネレバ
君ハ辺地二左遷トカ
御地ハ梅ノ花ザカリ
春ノ思イハ如何バカリ
他にも楽しめる作品が色々。まあ一度に読むよりはゆっくり一日2,3編ずつ楽しむのがいいでしょうね。スローフードならぬ、スローリーディング。