名古屋グランパスの宮原和也選手がコロナ陽性になったというお知らせの英訳がちょっと問題という話がでました。その文面は以下のようなものだったのですが(これは公式サイト nagoya-grampus.jp の一部です。現在は修正済)... たしかにこれでは宮原選手が陽性になったことが「嬉しい」みたいです。
"We are pleased to announce that Kazuya Miyahara has been confirmed to have a positive reaction for a new coronavirus infection."
このようなことが起きるのは機械翻訳の出力結果をノーチェックで使ったからだと思われるので、実際に調べてみました。
公式アナウンス:
「このたび、宮原 和也選手に新型コロナウイルス感染症の陽性反応が出たことが確認されましたのでお知らせいたします。」
"We are pleased to announce that Kazuya Miyahara has been confirmed to have a positive reaction for a new coronavirus infection."
DeepL翻訳:
"It has been confirmed that Kazuya Miyahara has tested positive for a new type of coronavirus infection."
ひとつめで大当たりで、このアナウンスの英訳は Google翻訳だったことがわかります。
(話はそれますが「新型コロナウイルス感染症の陽性反応」というのは変な表現ですね。正確には「新型コロナウイルスに対する陽性反応」と書くべきでしょう)。
さて、「自動翻訳の結果を確認するためには、もう一度逆翻訳をしてみると良い」という説を唱えるブログも結構あります。しかしながら単語の置き換えに関する大きな間違いとか、肯定否定の誤りなどを見つけるならともかく、「適切な文章表現かどうか」はなかなか判定が難しいものです。
次の記事などはその辺の事情を丁寧に説明しています。
さて、では今回の英文を逆翻訳してみたらどうなるのでしょうか。
Google 翻訳による逆翻訳
「宮原和也さんが新たなコロナウイルス感染に対して陽性反応を示したことが発表されました」
英語の主語であった We が忘れられて、第三者的訳文になっていますね。これはこれでおかしいのですが、逆翻訳中には「陽性になったことを『嬉しい』と思っている」ニュアンスは現れていません。なので逆翻訳を使って翻訳の質のチェックをしようとしても、この問題はみつけることができないということになります。
なお英文を
"We are sorry to announce that Kazuya Miyahara has been confirmed to have a positive reaction for a new coronavirus infection."
とすると生成される訳文は
「宮原和也さんが新たなコロナウイルス感染に対して陽性反応を示したことが確認されました。」
となりました。文章はほとんど変わらないのですが「発表されました」が「確認されました」に変わっています。でもこれでは "sorry" のもつ「残念感」は表現されていませんね。
問題は、「このたび〜をお知らせします」といったパターンの文章を Google 翻訳が、きまり文句として "be pleased to annouce 〜" という文章にしてしまうことです。
別の文章:
「このたび離婚したことをお知らせします。」
Google 翻訳:
"We are pleased to announce that you have been divorced."
まあこの機械翻訳も誰が離婚したのかがわからなくなっていますが(もとの日本語もそれを明示していない)、それはともあれ「お知らせする」の部分が、問答無用に "are pleased to annouce 〜" になっていることがわかります。これはこうした文章を大量に Google が学習しているからです。
なので逆翻訳をしても、"are pleased to 〜" の部分を「定型文」としてスキップしてしまうのですが、やはり "are pleased to" と言われるか "are sorry to" と言われるかでメッセージのメタな意味は 180 度変わってしまいます。
もちろん「めでたく離婚した」と言いたい場合もあるでしょうから(笑)、何が正解かは文脈を知らずには判断できません。しかし現状の機械翻訳はそうした文脈を理解できないのです。
機械翻訳は便利な技術だと思いますが、そうした限界を理解して、あくまでも補助的な役割だということを忘れないように使いたいと思います。