酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

テラプト先生がいるから

テラプト先生がいるから

テラプト先生がいるから

アメリカのとある小学校、新任のテラプト先生は、ひと味違う学級運営で子供たちの心を掴んでいく。しかしあるとき大事件が。

この小説の特徴は、物語の視点がタイトルにあるテラプト先生の視点からではなく、単なる第三者的視点からでもなく、テラプト先生が担任となった5年生のクラスの子供たちの視点で描かれているということです。クラスの子供のうち7人の視点が次々に切り替わりながら話が進められていきます。7人の子供たちはそれぞれの個性をもって書き分けられ、みなそれぞれの事情を抱えています。
全てが順調に進むわけではなく、問題も次々に立ち現れますが、子供たちもその家族もそれぞれの思いと共に成長し何かを取り戻し、未来を見通して行こうとする姿が、子供たちそれぞれの視点で描かれています。といっても、視点はあくまでも子供のものですから、押し付けがましい倫理観や理屈を子供自身が滔々と述べることはありません。ただ日常の出来事に対する喜怒哀楽の感情や行動のディテールが丁寧に積み上げられていくだけです。読者は語り手である子供たちをそっと見守っているような気持ちになれるかもしれません。
ありがちな「理想の教育者像」を語ろうとする小説でもありません。実際テラプト先生にも指導者としての判断の甘さがあり、それが「大事件」へとつながってしまいます。登場人物がその事件をそれぞれに受け止めて、悩み苦しむ様子、その中で描かれる「救い」の様子は深い印象を与えます。
大人でも子供でもそれぞれの視点で楽しめる小説になっていると思います。翻訳本ですが、いわゆる翻訳調とは無縁の文章です。自然に物語の中に入り込んでいくことができます。
あと涙腺の弱い人は人前では読まないほうが良いかもしれません(笑)。