酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

寝ずの番

寝ずの番 (講談社文庫)

寝ずの番 (講談社文庫)

師匠が亡くなる「寝ずの番」、一番弟子が亡くなる「寝ずの番2」、おかみさんがなくなる「寝ずの番3」。「おもろうてやがて哀しき」中島らもの境地が遺憾なく発揮されています。映画化にともなって発刊された角川文庫版には、この三篇しか収録されていないようですが、こちらはそれ以外にも絶妙のくすぐりを宿した短編が詰め込まれています。買うならこちらでしょう。
ただ内容はかなり「艶笑的」かつ「お下品」ですので、その手のシモネタを受け付けない方にはお勧めしません。
寝ずの番3の最後の唄がとても心に沁み込みます。
中島らも氏の最期には今でも心が痛みます。まことに「彼らしい」なにひとつ飾るところのない死でした。決して褒められたものではない、そして誰かに勧めることもできない生き方でした。そこから搾り出されたのがこうした「傑作」*1だったのだとしたら、芸術あるいは創作とはなんと残酷なものなのでしょう。

*1:もちろん中島氏の作品を駄作と判ずるひとも多かろうと思います。絶対的な芸術が何かを論ずることは私の手には余ります