酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

幸福不感症

幸福不感症 (小学館文庫)

幸福不感症 (小学館文庫)

週間ポストの連載「昼寝するお化け」から、特に海外事情を扱ったものを抜粋した文庫本です。長らくキリスト教系のボランティア団体を運営し、日本財団の理事長を務めて様々な国際援助に民間の立場で関わってきた曽野綾子氏の話題は多岐に渡り、日本人がいかに世界的な基準でみて特権的な地位にいるのか、そしてその地位にいることの幸運を忘れているのかを教えてくれるようです。表題の幸福不感症というのは、その日本人の無自覚さを指摘するものでしょう。
曽野綾子氏の持ち味は、幻想を振り撒かず、現実を突きつけながら議論を展開するところです。願望と事実が違うというアタリマエのことを、ともすれば私たちは忘れがちになってしまいますが、海外で起きているさまざまなな事例を通して、私たちは自分たちがどうなって行きたいのかを問いかけられるような気がします。
まあ私は曽野氏の主張全てに賛成しているわけではありませんが*1、少なくとも本書内では氏としての筋道は通っていると思います。

*1:レファレンスを示すことができませんが、例えば彼女がかつて「すべての学生に数学を教える必要はない、現に私は学校を卒業してから一度も二次方程式を解かなければならない羽目にはならなかった」という発言をしたときには、雑な議論だなと思いました