- 作者: 奥田英朗
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/04
- メディア: 単行本
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今回もその傍若無人ぶりは健在なのですが、なんとなく前作迄のようなカタルシス感が少ないのですね。
何故かなと考えたのですが、前2作では、患者が小市民的悩みをかかえて精神科の扉をすがるようにたたいてみると、そこには権威や癒しではなくそれを越えたアナーキズム(=伊良部一郎)があって、それに比べると世間が自分に与えている試練なんてたいしたことはない、と脱力できるところが、面白かったように思います。
ところが本作(4編中表題作をのぞく3編)では「患者」は小市民ではなく、有名人をモデルにした社会的にも成功しているとても小市民とは呼べないような人たちばかり。そして世間が自分に与えている試練には確かに理不尽なものも多く、相対的に伊良部の理不尽さも薄まって見えてしまいます。最後の「町長選挙」も伊良部先生以上に選挙戦を戦う両陣営がハチャメチャすぎて、伊良部先生の奇人ぶりも普通の域へ。
こうした意味からは、伊良部一郎の際立った変人ぶりと破壊パワーを面白がって溜飲を下げたい人には物足りないことになると思います。
まあその辺をあまり気にせず、主人公の心中の悩みが細かい社会との関わりのなかで徐々に解消されて行く様に、読者としてより添うことができれば、十分に面白い短篇集だと思います。軽く読めることも大切です。