酔眼漂流読書日記

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造形集団 海洋堂の発想

造形集団 海洋堂の発想 (光文社新書)

造形集団 海洋堂の発想 (光文社新書)

海洋堂そのものについての解説はもはや不要でしょう。チョコエッグのブームによりユニークな造形集団「海洋堂」の名前が世間の人々に広く知られるようになったのはそう古い話ではありません。
この本はその海洋堂の成立の過程と歴史を、創業者の息子で専務でもある著者が解説した本です。
一読して思ったのは、海洋堂という組織がまるで「毎日が学園祭前夜祭」のような場所だったということです。お金のためではなく、ただ好きなものに打ち込み、仲間同士で刺激し合って、手探りで技術を磨き上げてきた蜜月の時代があったからこそ、現在の海洋堂が存在しているのだということがよくわかります。
こうした組織は計画的に作ることはできません(作ることができたらそれはとても凄いことだと思います)。
私は個人的にこうした組織を「スクール」と呼んでいます。志の共有というほどの大げさなものではなく、ただただ「好きだ、面白そう」という動機で若い人が集まり、驚くほどの集中力で新しい分野を切り開いていく様はその中に居合わせたもの以外には伝わりにくいものかもしれません。スクールの構成員自身は辛い競争をしているという意識はさらさらなく、どちらかと言えば仲間内に向かって「ほらほら、こんなものを作って(やって)みたんだぜ〜、凄いだろ!」と自慢してみたいといった、どちらかと無邪気な動機が原動力になっているのが特徴です。コスト無視の過剰品質もしばしばみかけられます。すなわち今ではコストと効率を重視する企業にとっては敵ということになるのですが、こうした過剰なまでのこだわりを経て、初めて突き抜けた技術者が育ってくるのだと思っています。
誤解を恐れずに言えば、最初からバランスのとれている技術者などを目指してもロクなモノにはなりません(笑)、それよりも最初はなんらかのこだわりに向かって突き進むこと、そのためには良いものはどんどん模倣すること、独善的ではなく仲間の作った凄いものを(心の中だけでも(笑))きちんと認めるだけの柔軟性を持つことが肝心でしょう。
ある特定の業界の人にしか通じない話題で恐縮ですが、UNIXとインターネット の SRA、オブジェクト指向の FXIS もある時代こうした「スクール」の役目を果たしていたと思います。