酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

いのちの食べかた

いのちの食べかた (よりみちパン!セ)

いのちの食べかた (よりみちパン!セ)

本書の第一の主題は「皆が毎日食べる肉はどのような経路を通り、どのような人たちの、どのような作業の果てに食卓に届くのか」を解説することです。
一方で生きている牛豚がいる事は皆知っている、そしてもう一方の食卓の上にはどこかで「肉」に加工された食べ物が載っている。この間はどのようにつながれているのかを、主に子供たちに伝えようとしています。
とはいっても優れたドキュメンタリー作家でもある森氏が更に踏み込むのは、加工技術の詳細を掘り下げるという方向ではなく、精肉業に携る人々の歴史的、社会的な位置付けを解説する方向となります。と書けばお分かりのように、本書の後半は食卓に直結する被差別部落の差別問題と、それを一段抽象化した人々の思考停止の危険さを訴えるものになっています。
しかし、この本のメッセージはそうした社会問題そのものを強調することだけではありません。世の中がますますブラックボックス化していくなかで、人間が生きていくためにはその裏で無数の人々の働きが隠されていることを伝え、その流れの一つを実際にたどる方法を示して、社会のなりたちへのアプローチの仕方を実際に示してみせることが更に抽象的なレベルでのメッセージなのです。
小学生だとまだ辛いかもしれませんが、中学生程度なら適切な指導者と一緒に本書の内容を一緒に読んでいくことはできると思います。森氏が繰り返し訴えるのは「知ること、考えること、判断すること」の大切さです。