酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

もっとソバ屋で憩う

先日亡くなった杉浦日向子氏が関わった「ソバ屋の悦楽ガイド」。
なんといっても前書きが素晴らしい。

グルメ本ではありません。おとなの憩いを提案する本です。
ソバ好きの、ちょいとばかし生意気なこどもは、いますぐ、この本を閉じなさい。十年はやい世界ってものがあるのですよ。
腹ぺこの青春諸君も、もう、この先を読まなくていいです。諸君の胃袋を歓喜させる食べ物は、ほかにゴマンとある筈です。
デートや接待に、使える薀蓄はないかと、データ収集のつもりの上昇志向のあなた。この本は期待に添えません。さようなら。
さて、残った皆様。
最近、ほっと安らいだのは、いつ、どこでですか。…(略)

多くの場合杉浦氏の著作は、対象を客観的に観察して報告するというよりも、その対象に対する「恋文」のようだと言われることがありますが、本書もソバ屋に対する愛情が溢れた本ですね。
ソバ屋を具体的に紹介している部分は杉浦氏のソバ屋仲間の方々の手になるもので、ソバ好きの文章で埋め尽くされています。その合間合間を杉浦氏のコラムでつないでいくといった形式です。
平日の午後ソバ屋に立ち寄って冷酒を飲み、仕上げに美味しいソバを一枚。そうしたささやかながらも贅沢な時間の愉しみかたと*1、その世界を教えてくれるお店を紹介してくれる本です。

*1:まあ、なかなか実現できませんが