酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

科学と非科学の間

科学と非科学の間 (ちくま文庫)

科学と非科学の間 (ちくま文庫)

科学技術が進歩して、世間にブラックボックスが増えるにつれ、かえってオカルト現象について盲目的に信じる機運が高まっているのは皮肉なことです。かつてオウム真理教事件の直後には、一時的に自粛されていたかのような、神秘現象を扱う雑誌の記事やテレビ番組も、その正当性を問わないまま垂れ流し状態に戻ってしまいました。本書は様々なオカルト現象や事件に関する批判的解説を楽しみつつ、合理的精神の育成に現代の教育が果たすべき使命についても考察されたものです。
不思議なものへの憧れが、人生や人間生活の潤滑油として機能したり、敬虔な気持ちが人間の徳性を高めてくれる間は良いのですが、それが人間の(しかも他人を巻き込んだ)運命を徒に左右したり、差別や虐待を助長したり、本人を精神的経済的に追い詰めるようになっては冗談で済ますことはできなくなります。
本書の著者の安斎育郎氏は、決して科学万能主義者ではなく、科学には限界があることを認めた上で「必要な場所で、合理的考察を積み重ねていくことの大切さ」を訴えます。世の中に瀰漫する「思いがかなわないことによる、諦めをともなった無力感」が人間の心を弱くしていき、結果として不合理な事態に巻き込まれる悲劇をなんとかしたいという思いが行間からひしひしと伝わって来ます。
私にとってもこうした事態は決して他人事ではありません。