酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

なにも願わない手を合わせる

なにも願わない手を合わせる

なにも願わない手を合わせる

インド、チベット、東京、アメリカを広くさすらい、その足跡と思惟を印象的な写真とともに記録してきた藤原新也氏の著作。知人からの紹介で読むことができました。
この本は、お兄さんの死をきっかけに四国へ巡礼の旅に出た藤原氏が、去った人々生き残った人々との思い出を胸に巡らせながら祈りの意味を考える文章が大半を占めています。一通りの話が途切れたあと突然目に飛び込んでくる鮮やかな写真。相変わらず印象的な写真の使い方です。
途中、癌で死期の迫ったお兄さんと藤原氏が食事をする場面が印象的でした。既にほとんどの食材を受け付けなくなっていたお兄さんが、ひと盛りのイカ刺しだけを食べることができたのをみて、藤原氏は心のなかでつぶやきます

イカ君、美味しくて、ありがとう。

祈りの意味を求め続けた藤原氏の一つの結論が「なにも願わない手を合わせる」という表題に顕れています。何の現世利益を願うことなく、無心で手を合わせ祈ることさえできれば…。
なお、途中引用されていた日蓮の書簡の一節が印象的でしたので、さらに孫引きしてしておきましょう。

籠の中の鳥なけば空とぶ鳥のよばれて集まるがごとし。
空とぶ鳥の集まれば籠の中の鳥も出んとするがごとし。
口に妙法を奉れば我が身の仏性もよばれて必ず顕れ給う