酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

遥かな町へ

遥かな町へ (ビッグコミックススペシャル)

遥かな町へ (ビッグコミックススペシャル)

敬愛する漫画家、谷口ジロー氏による作品です。かつて上下巻として刊行されたものですが、ヨーロッパでいくつかの漫画賞を受賞したことにより、合本として改めて発行されました(示した画像は上下巻に分かれた版の下巻ですが)。
お話ですが、仕事にも人生にも疲れ気味の中年男性の主人公が、出張先で気を失い、気が付くと14歳の頃の自分として甦ります。まあプロットとしてはありがちなものですが、子供のころにはあれほどいやだった授業の様子や、既に他界した母親との再会、やがて失踪する父親を囲む団欒を通して主人公は忘れていた瑞々しい感性や、家族の絆の大切さを少しだけ再認識します。
読み込めば読み込むほどに、繊細な線の一つ一つが朴訥に語りかけてくるようです。限りなく熱いメッセージを伝えながら、その立ち現れは水のように静かで穏やかです。余韻を残す最後も鮮やかだと思いました。
できれば40代以上の大人の方々にお勧めしたい本です。