酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

批評の事情

批評の事情 (ちくま文庫)

批評の事情 (ちくま文庫)

昨日に引き続き、永江朗氏の著作。この本はもともと2001年に出版されたもので、基本的に90年代にブレークした44人の評論家を「評論」するもの。昨年文庫本化されたものです(批評家を批評するところから「批評の二乗」という駄洒落も少しあったらしい)。
さすがに紹介されているすべての評論家を読んだことはありませんでしたが、知っている人に関する項をまず読んでみると、たしかに個人的に共感できる内容が多いと思いました。結構永江氏とは受けるツボが似かよっているのかもしれません。しかし、それゆえに知らない人に対する評論を読んで、それだけでわかったような気になるのは少し危険かなとも思い、自戒しています。
2001年の単行本発刊時の直後に9・11が起きました。この文庫本にはその後のこぼれ話も追加されていますが、そうしたエピソードを読むにつけ、結局90年代に現れた多くの評論家達は、たとえ誠実な仕事を本人がなしていたとしても、世間に広く冷静な議論を巻き起こすだけの力を持ち得なかった(それは読者である私たちにも大きな責任があるのですが)印象を受け、なんともいえない気持ちになります。
提起されている問題と議論は確かに重要だし面白い。しかしそれらが単なる知的ゲームの範疇を越えて、今崩れようとしているこの世界を支えるだけの力を持つことはできるのでしょうか。