酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

厄除け詩集

井伏鱒二(著)ISBN:4061962671
小説「山椒魚」であまり本を読まない人の記憶にも残っている井伏鱒二の詩集です。一昨日の「「サヨナラ」ダケガ人生カ―漢詩七五訳に遊ぶ」の紹介時に、この本の話が出たので改めて手に入れて読んでみました。こう読んでみると、普通に世間が抱いている詩のイメージとはまた少し違った趣ですね。有名な


「サヨナラ」ダケガ人生ダ
も含まれていますし、そのほかにも面白い戯訳が含まれていますが、ここではそれとはまた別の趣の、少し気に入った詩を引用しておきましょう

逸 題

今宵は仲秋明月
初恋を偲ぶ夜
われら万障くりあはせ
よしの屋で独り酒をのむ

春さん蛸のぶつ切りをくれえ
それも塩でくれえ
酒はあついのがよい
それから枝豆を一皿

ああ 蛸のぶつ切りは臍みたいだ
われら先ず腰かけに坐りなほし
静かに酒をつぐ
枝豆から湯気が立つ

今宵は仲秋明月
初恋を偲ぶ夜
われら万障くりあはせ
よしの屋で独り酒をのむ

(新橋よしの屋にて)