酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

物語消滅論―キャラクター化する「私」、イデオロギー化する「物語」 (角川oneテーマ21)

大塚英志(著)
大塚英志氏の問題意識は、イデオロギーが力を失った後に、「物語」が世界をドライブする傾向についての危惧と、その分析です。イデオロギーによる指導原理の崩壊後に、なんだか世界が単純化しているような気がする(今回の「イラク戦争」なぞも「善悪の戦い」といった「フィクション」の産物でしょう)という指摘は、私の感覚にも響くものでした。そして興味深いことに大塚氏は「文学」の復興を主張します。それにもまた共感するところ大ではあるのですが・・・。
よくよく吟味してみないと、あまりハッキリしたことは言えないのですが、あえて意地悪な見方をするならば大塚氏のこの言説は、もはや引き返せないほど泥沼化しているような現代の状況に対しての「アリバイ工作」のような香がします。昔は自分の思うとおりに好き勝手に遊んでいればよかったのに、すなわちエスタブリッシュメントは磐石という前提のもとに、安心して実験を繰り出すこともできたのに、いまや拠って立つ場所が急速に失われた結果自分達のサブカルチャーが状況に浸透して「しまう」ことに対する恐怖が大塚氏の根底にあるような気もします。
考えるべき多くの問題を抱えた、少々重たい(しかしお勧めの)本です。