酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

ネットと戦争―9.11からのアメリカ文化 (岩波新書)

青山南(著)
翻訳家でありエッセイストでもある青山南氏が「すばる」に 2000 年の 7 月号から毎月連載しているネット浮遊記「ロスト・オン・ザ・ネット」から 2001 年 9 月 11 日の事件のあとのものをピックアップして構成した本です。まあ全文がネットワークで公開されていますので、本をわざわざ買う必要もないともいえますが、まあ本は究極のエコモバイルツールですので(笑)。
さて内容は特に 911 のみに特化しているというわけではなく、青山氏の興味を惹く作家やジャーナリストのオンライン記事をいろいろ紹介するといったスタイルです。もちろんニューヨークの事件は大変な悲劇でしたので、いきおいその事件に対する知識人の言及も多くなるわけなのですが。主に米国の記事が中心で、米国の「文壇事情」なども透けてみえて興味深い内容です。
さて 911 テロ以降「不寛容」さを増す一方に見える米国ですが、もちろん一枚岩ではなく、多くの人達が懸念を表明しています、ネットワークの上にはそうした情報が多く公開されていますが、日本のマスコミを通して接するだけではなかなか伝わりにくい状況ですね。また、米国のイラク戦争に関連して紹介されていた、ワシントンポストの「イラク戦死者の顔(FACES OF THE FALLEN)」というページは衝撃的です。これは毎日の米国の戦死者が、顔写真、簡単なプロフィール、そして死因とともに紹介されているページなのです。日付順に並んだこのリストを見ていると人間の愚かしさに涙が流れます。もちろんこのページを見て戦意が昂揚する人もいるのでしょうけれどね。それにしてもイラク側の被害者をこのような形で取り上げようと思ったら、とてもこんな数では済まない筈ですから、さらに心が痛むのですが。
他に紹介されているサイトの中で興味深かったのが「議会図書館」が運営する "American Memory"というサイトでした。ここには米国の歴史に関する様々な資料がわんさと詰まっていて、古い写真等を眺めているだけでも飽きません。米国の懐の深さも感じさせます。