酔眼漂流読書日記

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酒匂隆雄の為替塾―外国為替の新常識

酒匂隆雄(著)
最近素人投資家の耳にも「外国為替保証金取引」というキーワードが聞こえて来るようになりました。通常の外貨預金は一見利率が良さそうに思えても、実は円から外貨へ、あるいは外貨から円への手数料が高いため、よほど長期の預金でなければ割に合いません。
これに対して「外国為替保証金取引」は、はるかに安い為替手数料で外貨や円の売買を行うことができます。また実際の取引額に比べると、はるかに小額(数パーセントから)の保証金を使って取引ができるため、僅かの投資で大きな利益を期待することができます。
たとえば100万円を保証金として使い1000万円分の外貨を買うとします。ここで外貨が1%上昇すると1000万円分の外貨は1010万円相当になりますから、10万円の儲けということになります(簡単のために手数料等の計算は省いています)。円ドルの関係で言えば現在1%の上下変動は約1円の変動に相当しますから、日々のニュースを見ている人の中には「なんだ、1円くらい毎日動いてるじゃないか、じゃあ毎日10万円の儲けか」というお気楽な考えを浮かべる人もいるかもしれません。
が、これは非常に楽観的なシナリオでありまして、常に「損をする」側のことを忘れてはいけません。儲けが大きいということは、損の額も大きいということで、ちょっとした不注意であっという間になけなしの虎の子を失いかねないのが「外国為替保証金取引」の特徴でもあるのです。
さて前置きが長くなりましたが、この本は30年にわたり外国為替ディーラーを務めた酒匂隆雄氏が一般投資家向けに書いた「為替取引の心得」の本です(あくまでも心得の本なので、この本を読んでバンバン儲かるようにはなりません)。最近は怪しげな業者も含め外国為替取引の勧誘宣伝を目にすることも多いのですが、酒匂氏の主張はとても簡単で「一般投資家は大きく儲けることはできない。否、大きく損をしない戦略を積み重ねて、地道なお小遣い稼ぎに徹するべきである」ということに尽きます。
多分この心得は、一般の投資行動全般に当てはまるものでないかと思われます。専業ディーラーでない限り投資からのリターンは「定期預金よりは、ある程度有利」位の気持ちで進めることが必要なのだと思います。その他バクチに熱くなり易い人にとっての教訓とも似かよっていると思います。
ということで、世の中のギャンブラー気質の人達(特に負け易い人)にも是非お勧めしたい本ではあるのですが(笑)、結局ハマりやすい人はこうした教訓を自分のものとして生かせないので、悲喜劇が起きてしまうんですけどね…(もちろん、本人と家族にとって悲劇、傍観者にとって喜劇ということですが…)。本としてはもっとコンパクトにまとまっていたほうが他人には勧めやすかったと思います。
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(脚注)なお、この本の著者は私とは何の関係もありません(笑)。