酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

空中ブランコ

奥田 英朗 (著)
イン・ザ・プール」で登場した破天荒な精神科医「伊良部一郎」が再び登場。相変わらずのハチャメチャぶりで患者を振り回します。この作品で奥田氏は直木賞を受賞したため、読んでいる方も多いことでしょう。さて、今回の犠牲者じゃなかった患者は、飛べなくなった空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のヤクザ、突如送球コントロールを失った名三塁手強迫神経症にかかった恋愛小説家などなどといった、前作にも増して濃そうな面々です。
本作品では伊良部やマユミ(看護婦)の性格が、やや「丸く」なったという書評を事前に読んだため、実は若干心配しつつ読み始めました。世間的な価値観に阿るようでは伊良部の魅力も半減というものです。しかし結果は杞憂でした。相変わらずの傍若無人ぶり、それでいてどことなく憎めないキャラクターという伊良部の描写はこの作者の力量を感じさせるのに十分です。そしてこのとんでもない医師と付き合ううちにそれぞれの患者達がやがて、自分で自分の道を見出して「治癒」していくというパターンは健在です(最後の短編「女流作家」は少し違うパターンですが)。装丁も美しく楽しめます。
お恥ずかしい話ながら、本当に久しぶりに本を読みながら声を出して笑ってしまいました。電車の中などで読むときはご注意を。

追記(蛇足):

この作品も前作の「イン・ザ・プール」も大変面白い作品ながら、実際に治療が必要な方への贈り物などにはお薦め致しません。病院に行きましょう(日本人は「精神科、神経科」に対して身構え過ぎです)でも本書も神経症の予防位には役立つかもしれませんね。