酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

雨にもまけず粗茶一服

松村 栄子(著)
武家茶道坂東巴流(茶道、弓道、剣道)の不肖の後継、友衛遊馬(ともえあすま)は、大学受験をサボってコンサートに行ったことがバレ、「比叡山に送り込んで、根性を叩きなおしてやる!」と激怒する父親(九代目)から逃れて家出を敢行してします。当初は武家のたしなみとして武道中心に発した巴流も、現代ではすっかり茶道にその中心が移ってしまっています。
子供の頃、京都の宗家の跡取り息子に皮肉を言われたと思い込み、そのためずっと京都を嫌っていた遊馬は、家出後ひょんなことから京都の畳屋に居候することになり、そこで職人や、住職、道具屋、茶人、その他の人々との交流を経験します。やがて不肖の息子も人々が大切にしているものに気が付いていくといったお話。
こう書くと、なんだか辛気臭い話だなぁ、と思われるかもしれませんが、実際にはとても軽妙な語り口で、読者はちっとも「成長しない」(「懲りない」というべきかもしれませんが)主人公に半ばやきもきしながらも、最後まで一気に読まされることになります。面白いのは、例えばなんとなく形式だけに目の向きがちな「お茶会」の「遊び方」が丁寧に描写されていたりすることで、茶道の門外漢にとっては非常に新鮮な情報に接することができます。その場に供される花、掛軸、茶菓など一つ一つに遊び心が生かされていることがわかり、茶道の魅力の一端が僅かながらもわかった(ような)気になります。もちろん本気で遊べるようになるには、本気でのめりこんでみなければならないのでしょうけれど。
他にも托鉢とはなにかとか、畳業界の事情などなど。日本の伝統文化が担っている良質の遺伝子も知らず知らず伝わってくる良作です。