酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

人間は考えるFになる

土屋 賢二, 森 博嗣 (ASIN:4062125803)
通りがかりの山下書店の店頭に平積みになっていたのを思わず購入してしまいました。週刊文春などに軽妙(?)なエッセイを連載し続けている哲学教授土屋氏と、建築学助教授にしてミステリィ作家の森氏の対談です。普段の土屋氏のエッセイは果てしなく続くドタバタ喜劇のような文体で(笑)、私などには少々胃にもたれるのですが(失礼)、この対談を読んでみると森氏との掛け合いが楽しく回っていて、なかなかの対談の名手であることがわかります。
お二人とも大学の教官なので、大学の話から始まり、お互いの趣味の話や、文章制作のプロセスなどについての話題が取り上げられます。しかし、森氏の「10ページ先のことしか考えずに行き当たりばったりで書いている」「人物像も書きながらだんだん固めていく、喋らせているうちにコイツは悪そうと思ったら、悪役にしてしまう」「書いていて矛盾が起きたら、遡って修正してしまう」という主旨の発言は興味深く読めました。少なくともトリックの核だけは先に設計しておいて、それからその周りへ適当に人物造形を行いながら広げていく手法かなと思っていたものですから。まあ正確には「仕掛け=メカニズム」だけは先に決めておいて、「配役=人物と動機」を後から臨機応変に「代入」するという意味なのかもしれません。それなら良く理解できますけどね。
最後に土屋氏、森氏それぞれによる書き下ろし短編小説が掲載されています。この土屋氏の小説はエッセイと同様の「胃もたれ系」ですが、氏のエッセイが好きな方には面白い読み物でしょう。森氏の小説は、まるでそのまま対談が続いているかのような、人を食ったパロディとして仕上がっていて楽しめました。