酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

ケルト神話と中世騎士物語―「他界」への旅と冒険 中公新書 (1254)

田中 仁彦 (ASIN:4121012542)
ヨーロッパの古民族ケルトは、文字を持たなかったために自らの古い記録は残っていないものの、ギリシャの歴史家の記述、シーザーのガリア戦記などを通して、その文化をかろうじて垣間見ることができます。この本はまず、ケルト神話の中核をなす「他界」への旅を紹介しながら、それがキリスト教的な価値観と混ざり合い、やがて中世騎士物語へと昇華していく様を扱った興味深い本です。
大陸のケルトは、早い時期からローマなどに馴化されていったのに対し、ブルターニュ地方(フランスの西北端の半島)や、アイルランドは長く独自の文化が残されていたようです。もともとケルトの「他界」は日常生活の場所に隣接する場所(地下など)にあるものとされていましたが、ケルトがヨーロッパの端に追いやられるに従い、だんだん他界が「海の果て」にあるものとして描かれるようになったのも興味深いところだと思いました。