酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

哲学の謎 講談社現代新書 (1286)

野矢 茂樹 (ASIN:4061492861)
哲学者の野矢氏による、基本的な「哲学の課題」についての入門書です。専門的な論考というよりは、誰でも考える基礎的なそれでいて答えることの非常に困難な課題について、対話形式で話が進められて行きます。
見出しをあげてみましょう。


1 意識・実在・他者
2 記憶と過去
3 時の流れ
4 私的体験
5 経験と知
6 規範の生成
7 意味の存りか
8 行為と意志
9 自由
もちろんここで答えが提示されるわけもなく、どの話題もむしろその「難しさ」がますます際立つだけなのですが。
世の中には「哲学学(つまり哲学に関する知識)」を与えてくれる本は多いのですが、意外にこうした「哲学」そのものを促す本は少ないような気がします。そういう意味でもときどき手にとってパラパラと眺めて見たい本です。まあ SF 好きの中学生なら一度は悩んだような問題ともいえるのですが(笑)。
それにしても私達が持つ、中途半端な科学的知識が哲学的な課題をさらに解明困難にしている印象を受けました。昔、大学の教養課程で物理の講義を聴いていたときに、教授が雑談ついでに「世の中は初期値と運動方程式によって、これから起きることも全て決定済みなのだ」と話したことがありました。世の中で起きる出来事が物理的な法則に支配されているのなら、私達が「ある」ことをナイーブに信じている「自由意志」とは何でしょうか。あるいは認識と意味の関係を考えるとき、その対象を「モデル化する」という行為は何を目指しているのでしょうか。