酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

メリーゴーランド

荻原浩 (ASIN:4104689017)
とても面白い小説です。
Uターンで故郷に帰り、市役所の職員をしていた主人公が、ひょんなことから赤字垂れ流しのテーマパーク(第3セクター)の再建役として出向を命じられるところから話は始まります。それまでお役人の仕事の効率の悪さに半ば呆れつつ、自分自身もまたそのやり方に慣らされていた主人公は、行きがかり上「ヒマな公務員とは思えないほど」多忙な日々を送ることになってしまいます。
物語の一つの大きな山場は、ゴールデンウィークスペシャルイベントを、まわりからの「前例がない」攻撃をかいくぐり、一癖も二癖もある外部のメンバー(企画会社の担当、昔の演劇仲間、知り合いの棟梁の素行不良の孫、田舎の暴走族など)と共になんとか成功させ、テーマパークの先行きに薄日が差して来るところです。普通の映画などではここでメデタシメデタシで終わるところなのですが、物語はここからさらに急転し、後半ではそもそも赤字テーマパークの推進に大きく関わった現市長の選挙戦をめぐる思惑に否応なしに主人公は巻き込まれ、その運命が弄ばれることになってしまいます。まさに「凄まじきは宮仕え」。
このように書くと、重苦しい社会派小説かと思われるかもしれませんが、哀しいユーモアに満ちた軽快な文体で飽きさせません。日本を覆っているある種の「病」を巧みに戯画化して描き出すことにこの小説は成功していると思います。
物語の終盤、一緒に働いた暴走族の少年達と親愛の情をこめて「天下無敵!」「喧嘩上等!」とやりあうところは、胸に迫りました。