酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

こんな夜更けにバナナかよ

渡辺一史 (ASIN:4894532476)
進行性筋ジストロフィー患者であり、24時間介護がないと常に生命の危機に晒される鹿野氏と、彼を支えるボランティアたちの「葛藤」と「戦い」の記録。きれいごとも、おためごかしも、わかったような評論も一切を拒否するリアリティがここにあります。特に「善意のボランティア」「護られるべき障害者」という幻想を持つ読者は、それらがことごとく打ち砕かれることになるでしょう。その瓦礫の向こうに立ち上がるものの力強さを見届けましょう。
変わったタイトルは、あるボランティアが夜中に鹿野氏に起こされて、バナナが食べたいと言われたときの心のつぶやきから採られたものです。ともすれば深刻になりがちなテーマを底支えする乾いたユーモアも見所。大上段に振りかぶることなく、読者に生への執着、人を支えることの意味などへの根源的な問いを投げかけてきます。もちろんそれに答えないことも読者の自由ですが。
以下目次を引用しておきます。
プロローグ 今夜もシカノは眠れない
第1章 ワガママなのも私の生き方―この家は、確かに「戦場」だった
第2章 介助する学生たち―ボランティアには何があるのか(1)
第3章 私の障害、私の利害―「自立生活」と「障害者運動」
第4章 鎖につながれた犬じゃない―呼吸器をつけた自立生活への挑戦
第5章 人工呼吸器はわれなり―筋ジス医療と人工呼吸療法の最前線
第6章 介助する女性たち―ボランティアには何があるのか(2)
第7章 夜明け前の介助―人が人と生きることの喜びと悲しみ
エピローグ 燃え尽きたあとに残るもの