酔眼漂流読書日記

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スピリチュアルにハマる人、ハマらない人

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人 (幻冬舎新書)

スピリチュアルにハマる人、ハマらない人 (幻冬舎新書)

新年一冊目は精神科医の香山リカ氏による「スピリチュアル」分析本です。題名と異なりスピルチュアルにハマる人、ハマらない人を単純に類型化して見せるというわけではなく、スピリチュアルなるものを求める現代人の心を分析しようとする試みです。

ここではスピリチュアルなるものに対して一方的な否定も肯定もしていません。科学的に説明できないものに対する態度として、最後は「だから信じる」派と「だから留保する」派と「だから否定する」派に分かれてしまう人間の振る舞いを取り上げながら、超越的なものを信じることによって個人的に救済されたい人間の心理、容易に解離性障害を起こしやすい(並行して起きる論理的には矛盾する事象を個人の中で分離してしまい、よしとする)現代人の傾向をたどろうとしています。

私もそうですが、香山氏も「だから留保する」派だとは思いますが(よってスピリチュアルにはハマらない人)、これはスピリチュアル信奉者からすると、頭が固く感性の鈍い証拠ということになりそうです。

人間には安心して寄りかかれる価値観が必要なのでしょう。その役割をはたす旧来の社会習慣や、宗教観が崩れた今人智を超えた存在としてのスピリチュアルが注目される理由はわからなくもありません。これを単に「科学的ではない」という理屈で冷徹に切り捨てたところで、切り捨てられた側が幸せになれるわけでもありません。

しかし「神なき時代」をどのように生きるべきかの指針はまだきちんと示されてはいないようです。鴻上尚史氏の「孤独と不安のレッスン」などはこれに対する答えを出そうとする「だから留保する派」からの高潔な宣言だと思いますが、単に理を尽くして説かれるだけでそれだけの「強さ」を会得できる人は、それほど多くはなさそうです。哲学と文学はこの問題にアプローチしている筈ですが、自分の殻の中にこもっているだけでは結局何の力も持ち得ないことになるでしょう。

といっても簡単に答えがでるものではありません。このことはこれからも考えて行きたいテーマです。