酔眼漂流読書日記

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「感動」禁止!―「涙」を消費する人びと ベスト新書

「感動」禁止!―「涙」を消費する人びと  ベスト新書

「感動」禁止!―「涙」を消費する人びと ベスト新書

まずご注意。この本はとても「ノリ」の悪い本です。テレビのニュースや、スポーツ番組を見て一喜一憂してはストレスを解消をするのが好きな方にはきっと面白くない(場合によっては腹立たしい)本だと思います。

さて、この本が指摘する問題は、私たちの「感情」をどのように捉えるかという問題に直結しています。著者は現在の日本に横溢する「泣かせて欲しい」「感動させて欲しい」という雰囲気に違和感を覚え、それを一歩引いた目で1970頃からの「感性の商品化」の歴史を辿りながら検証して行こうとします。
世の中にこうも「感動の小ネタ」が溢れているのは何故か、それはお手軽に味わえる「感動」をパッケージとして売り込むことによって、拡大を図ってきた資本主義の宿命である、と捉えつつ、著者は感性と感動のビジネスの構造を浮き上がらせようと努力しています。
ある事象を見たときに「感動」するのは、もともとは受け手の感性によるものに関わらず(すなわち同じものを見てもツボが異なり、ある者は感動するが、他のものは感動しないことは十分あり得る)、現在の世の中に溢れるパッケージングでは、しばしば事象そのものが「本質的に感動的」であるということが大声で宣伝され、それに対して「いや・・・それほどでも」という態度を示すと「ノリ」が悪いと言われ、最悪バッシングの対象にすらなりかねない現代の状況に息苦しさや違和感を覚えている人は、本書を読むと面白いかもしれません。