酔眼漂流読書日記

本と音楽と酒場と言葉

バーのある人生

バーのある人生 (中公新書)

バーのある人生 (中公新書)

バーの楽しみは大人の楽しみ。
単にお酒を飲んで酔っぱらいたいだけなら、いくらでも安く酔う方法はありますが、バーはバーの主人と訪れる客が作り上げる社会的であり個人的でもある空間です。そこには出会いがあり、哲学があり、休息と、人生の一シーンが切り取られています。たとえとびきり美味しいお酒をお金を出して買ってきてバックバーに並べても、それだけでは良いバーにはなりません。内装でもなく、カクテルでもなく、什器でもなく、カウンターでもなく、BGMでもなく、料理でもない。もちろんそれらが丁寧に吟味されていることは当然ですが、それらを越えて空間を形作るのは人と人の関係です。
一つの居心地の良い空間を作り上げる責任の一端は客の方にもあります。もちろんこれはバーに限った話ではなく、社会的な空間すべてに当てはまることなのですが。金を払っているからってなんでもアリが許される筈もない。無粋な振る舞いはその空間のクオリティを下げ、結局自分自身の居心地をも悪くしてしまいます。

本書はバーを訪れることが好きな著者によるバー讃歌です。バーに対する憧れがうまく書かれている本だと思います。
オトナならよい行きつけのバーを一軒は持ちたいもの、この本は直接ここに行け、あそこに行けとは指示しませんが、バーに踏み込む前のこころの準備にも役立つかもしれません。