酔眼漂流読書日記

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商いの道―経営の原点を考える

順序としては「導きの星〈3〉災いの空 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)」の方が先ですが、年頭でもありますので(笑)「ビジネス」の基本へ遡ったお話のご紹介でも(紹介する私自身は、こちら方面は全く不調法なのですけど)。

商いの道―経営の原点を考える (PHP文庫)

商いの道―経営の原点を考える (PHP文庫)

イトーヨカードー創業者の伊藤氏による「商い道」の話。ヨーカドーグループというと最近はセブンイレブンジャパンの立役者である鈴木敏文氏の方が、世間での存在感がありますが、その出身母体であるイトーヨカードーを立ち上げた伊藤氏もしっかりした「商人」であることがわかりました。
所詮「勝ち組」の自慢話と眉をひそめる向きもあるでしょうが、そもそも「勝ち組」「負け組」という区分けそのものが思考停止の産物に過ぎません*1
本書の途中に「商売の原点10項目」が挙げられています。言われてみれば当たり前のことなのですが、あえてこのように書かれるということはそれだけ世の中で忘れられがちということなのでしょうか。

(1) しつけ
(2) 報告(コミュニケーション・スピーディな対応)
(3) お客様あっての商売
(4) お取引先を大切にする姿勢
(5) 教育・指導・育成
(6) 社会に貢献していく具体的行動
(7) 明確な経営理念
(8) 創意工夫
(9) 謙虚な姿勢
(10) 時代に敏感に対応していく姿勢

(1) と (5) が同じようなものでありながら、分けられていることの意味は大切かもしれません。
本書にはまた松下幸之助氏の言葉がいくつか引用されているのですが、その中にあった「経営者の心根」が面白かったので、メモしておきましょう。

少人数の人を使っている経営者は、自ら先頭に立って範をたれ、『ああせい、こうせい』と命令すればおおかた成果をあげることができる。しかし、百人、千人の規模になると、率先垂範して『ああせい、こうせい』では具合が悪い。心の根底において『こうして下さい、ああして下さい』といような心持ちがなければいけない。そうでないと全部の人によりよく働いてもらえなくなる。そして、さらに一万人、二万人となると、『どうぞ頼みます、願います』という心持ち、さらに五万人、十万人となると、これはもう『手を合わせて拝む』という心根がなければ部下は動いてくれない

まあここだけ読むと、「経営者って楽だなぁ」と思う人もいるかもしれませんが(笑)、「自分の手を下せないことに対して最後の責任を負わなければならないことが如何に苦しいことか」を理解できる人には、特に沁みる言葉なのではないでしょうか。

*1:雑誌や新聞を売るにはキャッチーな見出しですけれど